石垣島天文台と石垣島の星空の楽しみ方
2006年に設立された石垣島天文台。2015年には年間来場者が過去最高の1万3906人を迎え今最もホットな観光スポットの一つですが、石垣島における天体観測の歴史はとても古く、古来より星空が人々との生活と密接につながっていました。石垣島天文台と、石垣島の星空の魅力を紹介します。
![石垣島天文台上空に広がる天の川 石垣島天文台上空に広がる天の川]()
石垣島や竹富島などからなる八重山諸島で星空を眺めると、星の数とその鮮明さに驚く人も多いでしょう。石垣島では本州では見られない星も多く見られ、観測できる星の数は日本で一番ともいわれています。
石垣島天文台は、九州・沖縄では最大の口径105センチメートルもの望遠鏡「むりかぶし望遠鏡」を備え、石垣島の中でも標高の高い前勢(まえせ)岳の山頂に2006年に開設されました。施設の公開だけでなく、天体観望会やイベントなどを積極的に行い、石垣島天文台を「開かれた」場所になるよう努めています。今回はそんな石垣島の星空の達人、宮地竹史さんに天文台の魅力、さらに石垣島や八重山の星空について教えてもらいました。
更新日/2017年 6月
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八重山の人々の努力で作られた石垣島天文台
![石垣島天文台にある九州・沖縄一大きな「むりかぶし望遠鏡」 石垣島天文台にある九州沖縄一大きな「むりかぶし望遠鏡」]()
石垣島天文台は、国立天文台や石垣市のほか、石垣市教育委員会、八重山星の会、石垣青少年の家、琉球大学の6者の連携によって運営されている新しいタイプの天文台。開設には高校生の力も大きいです。「天文台を作るために、高校生が署名活動をしてくれて議会が予算を出すことになったんです。それで望遠鏡ができた時に、高校生たちに何か描いてとお願いすると、ミンサー柄を描いてくれ、『いつの世までも愛される天文台でいて欲しい』と言われました」
市民や観光客にもオープンな天文台として、2013年には宮地さんの念願でもあった星空学びの部屋が完成。誰でも無料で4D2U(4 Dimensional Digital Universe、4次元デジタル宇宙、2Uはto youの意味もある)を体験することができます。「空間の3次元に時間の1次元を足した4次元で4Dです。宇宙を立体的に体験できる映像を、開館している日なら毎日見ることができます。4D2Uを上映している場所は国内で13ヶ所ありますが、大抵20分ぐらい。それが石垣島天文台なら30分も見られます」
「星が止まって見える」八重山の不思議
![石垣島天文台の望遠鏡から見た土星。輪がくっきりと見える]()
そもそも、なぜ石垣島に天文台が建てられたのだろうか?その答えは、この地方の星空の特徴にあるといいます。「石垣島に来る前は、南の島ということもあり、暑いために大気の揺らぎがあって湿度も高いだろうから観測には適していないだろうと思っていたんですよ。ところが石垣島に来て驚いたのは、望遠鏡で見てもほとんど星が揺らがない。石垣島天文台には日本中の天文の専門家が来るんですけど、望遠鏡覗いて最初の一言は『星が止まって見える!』(笑)」 これは、本州上空と八重山上空の大気の違いによる現象です。本州上空では、ジェット気流と呼ばれる偏西風が流れていることが多いですが、八重山上空ではその影響が少なく、大気が安定しているからです。
また、八重山諸島は北緯24度に位置し北回帰線が近いため、夏至の日には太陽が真上に見えます。これが惑星を観測する条件としては、とても優れているといいます。「太陽が真上に見えるということは、その周りを回っている木星や土星や金星も同じように真上に近いところで見えるんです。つまり、空気の層が一番薄いところで見ることができる。信州などの山の上で見るのと同じような状態なんです。さらに八重山は、大気が揺らがない。これは、観測する上で非常に良い条件です」
日本一多くの星が見える場所
![水平線の中央よりやや右上に位置する南十字星]()
南半球でしか見られないような星が多いのも、八重山地方の星空の大きな特徴だといいます。例えば、南十字星。八重山では12月末から6月末までの半年ほど見られます。そして、21個の一等星が全て見ることができるのも、八重山だからこそです。「本州では16個の一等星を見ることができますが、八重山では本州では見ることができない一等星がさらに5個見える、つまり、21個ある一等星の全てを見ることができる。星座も全部で(国際天文学連合が定めた)88あるうちの84を見ることができます。これは日本で一番、たくさんの星を見ることができるということです」
春夏秋冬の星空の楽しみ方
![石垣島の冬の星座 石垣島の冬の星座]()
季節ごとに違った星空観測ができるのも、石垣島の星空の魅力の一つです。
「夏の星座の代表であるさそり座は、南の空に横たわっていると星座の本には通常書いてあるんですが、八重山ではSの字型に立ったような状態で見られます。また、夏は晴天率が高いので、天の川が日本で一番長~く見えるんです。秋は、本州では“秋の一つ星”と言って、南のうお座の一等星“フォーマルハウト”が一つだけ輝くのが普通なんですが、ここではもう一つの一等星“アケルナル”が見えます。冬には“カノープス”という星が家の上ぐらいに見えます。この星は本州ではとても低い位置にしか見えないので、日本広しと言えども山の上にカノープスが見えるのはここぐらいです。春には南十字星、ケンタウルス座のα星β星。このふたつの星は“ぱいがぶし(南の星)”と呼ばれ、真横に並ぶと稲刈りの時期ということになります」八重山の稲作は、今では珍しい二期作を行うことも多く、一期目は2月から6月にかけて。収穫が行われる5月末から6月にかけては、黄金色の稲穂をそこかしこで見ることができます。たわわに実る稲穂が刈られている田と星空のコラボレーションは八重山ならではです。
古くから続く石垣島・八重山の星文化
![夏の風物詩「南の島の星まつり」。星文化は形を変えて今も続く]()
石垣島や八重山には星に関する古謡や民話などが多く残り、星と密接に繋がっています。なぜこの土地が、そこまで星と関係が深いのでしょうか?「ここは琉球王朝の都(首里)からも遠かったので、カレンダーというものがなかったことと、太陰暦だと12カ月の年と13カ月の年があって紛らわしいと八重山の人たちが思ったんでしょうね。だから時節を知るのに星を目印にしていたんです。例えば、“立っている明るい星”と書いて“たちあきぶし”と呼ばれていたオリオンの三ツ星が昇ってきて東の風が吹くようになったら、キビの種を蒔く時期なんだというように。実際に星を見るための石『星見石』が石垣島、竹富島、波照間島などいろいろなところに残っています」
さらに、この地域独特の星の呼び方があります。すばると呼ばれるプレアデス星団は、むりかぶし(群れている星という意味)。北極星のことは、にぬふぁぶし(子の方角の星)。明けの明星や宵の明星と呼ばれる金星は、輝きだすと仕事が終わる時間ということで、しかまぶし(仕事の星)などなど。「これほど星にまつわる文化が残っている地域は世界的にもまれ」と宮地さん。
石垣島での天体観測は、ただきれいな星を見るだけでなく、星にまつわる色々な言い伝えに親しんでみてもおもしろいですよ。
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